
行政書士が解説|民泊の物件選定と建築・消防のポイント
民泊を開業する際、物件選定は成功の可否を左右する最重要ポイントです。 本記事では、住宅宿泊事業(民泊新法)に絞って、物件の種類ごとの注意点、住宅としての要件、「住宅」の定義、消防設備の設置要件についてまとめます。 旅館業(簡易宿所、旅館/ホテル)の物件要件(33㎡・用途地域6分類・建築基準法の用途変更など)は旅館業の物件選定と建築・消防要件で解説しています。 物件の探し方・内見のチェックポイントは民泊向き物件の条件と探し方とは?選定で失敗しないポイント、用途地域の確認手順は必ず契約前に!用途地域・建築基準から民泊の可否を確認しよう!で解説しています。
物件の種類ごとの民泊営業の注意点
民泊営業を実施している物件の種類は、大きく分けて「一戸建て」と「共同住宅(集合住宅)」があります。
共同住宅(マンション・アパート)
共同住宅は複数の住戸が同じ建物内に集まっているため、そこで民泊を実施すると、ゴミや騒音等による近隣住民とのトラブルが特に問題となります。 また、区分所有物件の場合には、マンション管理規約との関係も問題となります。
マンションで民泊を始める場合は、以下の点に注意が必要です。
- 管理規約で民泊が禁止されていないかを必ず確認する
- 規約に民泊について定めがない場合は、管理組合に「民泊を禁止する意思がない」旨を確認した誓約書が必要になる場合がある
- 区分所有物件で民泊を行う場合は、管理組合の承諾が必要
一戸建て
一戸建てを利用した民泊の場合、近隣住民とトラブルになるリスクは比較的低いといえます。 法律上も、自己所有物件の場合には区分所有物件と異なり、マンション管理規約のような規則に縛られません。
単独所有の土地・建物を使用して営業する場合には、法律上は第三者から民事上の制限を受けることはありません。
賃貸物件の場合
賃貸物件で民泊を行う場合、必ず貸主(オーナー)の承諾が必要です。 無断で民泊を行うと、契約解除・損害賠償請求などのリスクがあります。 賃貸物件での運営は、賃貸借契約やオーナー承諾の確認が重要となるため、その写しを用意しておくのがおすすめです。
住宅としての要件(住宅宿泊事業)
住宅宿泊事業として届出を行う家屋には、以下の設備が設けられている必要があります。
- 台所
- 浴室
- 便所
- 洗面設備
これらすべてが1棟の建物内に設けられている必要はありません。 いわゆる「離れ」でも、同じ敷地内の中心となる建物(=母屋)と併せて「ひとつの住所」として届出することができます。 ユニットバスのように、ひとつの設備で複数の機能を有している設備でも問題ありません。
居室面積の基準
宿泊者1人あたり3.3㎡以上の床面積を確保する必要があります(住宅宿泊事業法第5条の委任を受けた同法施行規則の規定)。
民泊における「住宅」の定義
届出を行う住宅は、次のような家屋でなければなりません。
- 現に人の生活の本拠として使用されている家屋
- 入居者の募集が行われている家屋
- 随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋
「現に人の生活の本拠として使用されている家屋」について
特定の人が現在生活している家屋を指します。 自宅の一部を民泊として貸し出す場合、このケースに該当します。 この家屋が住民票上の住所であれば問題なく営業が可能で、これを「家主居住型」と呼びます。
「入居者の募集が行われている家屋」について
住宅宿泊事業を行っている際に、その物件を売りに出したり、賃貸の募集をするなど、入居者の募集を行っている家屋を指します。 適正な価格で募集が行われていれば問題ありません。 しかし、相場を大きく超える価格で募集し、誰も申し込まない状況が続く場合、「意図的に募集を避けているのではないか」「民泊ビジネスなど投資目的ではないか」と判断され、行政機関への届出が認められない可能性があります。
「随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋」について
別荘やセカンドハウスなど、「生活の本拠として」使用していない家屋を指します。 「少なくとも年1回以上は使用している家屋」という条件付きですが、こちらは比較的緩い要件となっています。
相続した建物が「現在は居住しておらず、将来的に居住することを予定している家屋」であれば、この3番目に該当します。 もし使っていない空き家があれば、民泊として活用できる可能性があります。
用途地域の関係
住宅宿泊事業は住宅としての届出なので、住宅の建築が可能な地域であれば、住居専用地域でも営業が可能です。 一方、旅館業(簡易宿所、旅館/ホテル)は許可を取得して実施するため、実施可能な用途地域が限られています(住居専用地域では旅館業は原則として建築基準法により認められません。詳細は旅館業の物件選定と建築・消防要件で解説)。
民泊用の物件を選定する際には、当該建物の立っている敷地に関して、用途地域の確認と、防火地域・準防火地域では建物の構造が防火規制に適合していることの確認が必要です。
なお、住宅宿泊事業でも、自治体条例により営業日数や期間が制限される場合があります。
消防設備の設置要件
防災上の観点から、民泊施設には何かしらの消防設備を設置しなければなりません。 設置すべき消防設備は、建物の規模や形状、営業形態などで異なります。
主な消防設備
- 自動火災報知設備:民泊施設では原則設置が必要。設置範囲や戸数、機器の種類は面積や構造によって変わる
- 消火器:求められる場合がある
- 誘導灯:求められる場合がある
- スプリンクラー設備:一定規模以上の建物で設置が必要となる場合がある
- 非常用照明器具:住宅宿泊事業の届出住宅では設置が求められる場合がある
防火対象物の分類と設備の基準
住宅や事務所を民泊に使用する場合、消防法の要件が変わり、必要な設備が厳しくなる場合があります。 宿泊施設は不特定多数が出入りするため、火災警報や避難の問題が生じるからです。 消防設備が消防法の要件を満たしているかは消防署の立入検査があり、検査をパスしないと消防法令適合通知書の交付が受けられません。
民泊など宿泊施設は、不特定多数が出入りするため「特定防火対象物(旅館・ホテル・宿泊所等)」として扱われます。 ただし、一戸建ては防火対象物ではなく、マンションは防火対象物でも「特定防火対象物」ではないため、民泊に使用すると消防法上の用途が変わり、必要な消防設備が厳しくなります。 建物全体のどの程度を民泊に使うかで、以下のように分類されます。
一戸建ての一部を民泊に使用する場合
| 民泊部分の規模 | 扱い |
|---|---|
| 建物全体の50%未満かつ50㎡以下 | 「一般住宅」として扱われ、消防設備の新規設置は原則不要 |
| 建物全体の50%未満かつ50㎡超 | 「特定複合用途防火対象物」として扱われる |
| 建物全体の50%以上 | 建物全体が「旅館・ホテル・宿泊所等」として扱われる |
アパート・マンションの一部を民泊に使用する場合
使用割合に関係なく「特定複合用途防火対象物」として扱われます。
必要な消防設備
用途が変わった場合、主に以下の設備の設置が義務付けられます。
消火器:建物の総床面積が150㎡以上の場合は設置が必要。地階・無窓階・3階以上の階で50㎡以上の場合も必要です。
自動火災報知設備:すべての民泊部分に必要です。
特定一階段等防火対象物に注意:民泊部分が3階以上にあり、階段が屋内1系統しかない場合は「特定一階段等防火対象物」になり、建物全体(民泊部分以外も)に自動火災報知設備の設置が必要になります。 他のすべての住民の部屋に後から設置させてもらうのは不可能に近く、民泊を諦めざるを得なくなることもあります。 また、火災報知器の受信機についても、再鳴動方式火災受信機(平成9年以降の方式)の設置が必要になり、竪穴区画(階段部)の煙感知器も垂直距離7.5mに1個に増やす必要があります。 3階以上で民泊をやる場合は、特に注意してください。
自動火災報知設備の設置範囲は、以下のように延べ面積で変わります。
| 建物の規模 | 設置範囲 |
|---|---|
| 延べ面積300㎡未満 | 民泊部分のみ(簡易式・ワイヤレス可で比較的費用が安い) |
| 延べ面積300㎡以上500㎡未満かつ民泊部分が10%超 | 建物全体(ワイヤレス不可のためコストがかかる) |
11階以上のマンションの場合は、11階以上の全階・全部屋に必要です。 その他、大きな建物ではスプリンクラーや漏電火災警報器などの設置が必要になる場合があります。
避難器具:2階以上または地階に民泊施設があり、収容人数30人以上なら必要です。 特定一階段等防火対象物の場合は、収容定員10人以上で必要になります。 設置個数は、収容定員100人毎に1個追加になります。
誘導灯:避難口誘導灯・通路誘導灯・誘導標識の3種類に分類され、原則としてすべての設置が必要です。 居室から避難口が見通せる場合など、設置不要の例外もあります。 東京都の場合、100㎡以下の居室の出口には避難口誘導灯の設置が免除されます。 なお、マンションでは避難口誘導灯・通路誘導灯は地階・無窓階・11階以上の階のみ設置義務でしたが、民泊化による用途変更後は追加設置が必要になります(誘導標識はマンションでもすべて必要です)。
防火管理者の専任:建物全体の収容人数が30人以上の場合、防火管理者の専任・届出が必要です(建物全体で1人ではなく、各事業所・テナントごとに必要)。 収容人数は、洋室はベッド数+従業員数、和室は(面積÷3)+従業員数で算出します。 防火管理者には甲種(300㎡以上)と乙種(300㎡未満)があり、小規模の民泊施設なら1日講習で取得できる乙種で大丈夫です(民泊部分の収容人数が30人未満なら乙種で可)。 また、管理権原が複数(オーナーとテナントが分かれている等)に分かれた地上3階以上・収容人員30人以上の建物の場合、建物全体で1名の統括防火管理者を選任・届出する必要があります。
消防設備費用を抑えるポイント
届出する事業者が住む建物(事業者が住民票登録している)の一部を民泊として貸し出す「家主居住型」か、事業者などが常駐しない「家主不在型」か、宿泊室の床面積がどれくらいの広さか……などの条件次第で、消防設備の費用を安く抑えられる場合があります。
必ず事前に所轄消防署へ相談し、具体的な設置義務を確認してください。 物件を購入あるいは賃貸する前の段階から、自身で物件の調査を行うか、専門の代行業者へ相談することをおすすめします。
関連する消防手続き
- 消防用設備等設置届:建物に消防設備を設置する場合、消防署への届出が必要
- 防火対象物使用開始届出書:民泊運営開始前に所轄消防署へ提出(使用開始の7日前まで)
建築・消防の確認の進め方
実務的には、以下の順序で確認作業を進めると有効です。
- 物件情報の整理(所在地、延床、構造、図面の有無)
- 制度の当てはめ(届出・旅館業・特例のどれが最適か)
- 消防事前相談(設備要否や工事の必要性を確認)
- 建築適合の確認(用途や避難要件を図面で照合)
- 申請書作成と提出(補正を見越したスケジュールを確保)
住宅宿泊事業でも、消防法令適合通知書の取得が必要な場合が多く、簡易宿所相当の基準が準用されるケースがあります。
建築面では、用途地域・容積率・採光・避難の観点で適合性を確認し、必要に応じて用途変更の手続きを検討します(共同住宅→宿泊施設への用途変更の詳細は旅館業の物件選定と建築・消防要件で解説)。
まとめ
- 物件の種類(一戸建て/共同住宅)で、近隣トラブルのリスクや規約の制約が異なる
- 住宅宿泊事業の届出には、台所・浴室・便所・洗面設備と1人あたり3.3㎡以上の居室面積が必要
- 民泊の「住宅」は、現に居住/入居者募集/随時居住のいずれかに該当する必要がある
- 住宅宿泊事業は住居専用地域でも営業可能(ただし条例制限あり)
- 消防法では民泊は特定防火対象物として扱われ、消火器・自動火災報知設備・避難器具・誘導灯・防火管理者の要件が厳しくなる
- 消防設備の要否は建物ごとに異なるため、必ず所轄消防署へ事前相談する
よくある質問
Q1. 民泊にできる住宅はどんな要件を満たす必要がありますか?
台所・浴室・便所・洗面設備を備え、宿泊者1人あたり3.3㎡以上の床面積を確保することに加え、「現に人の生活の本拠として使用」「入居者の募集が行われている」「随時所有者等が居住の用に供している」のいずれかに該当する家屋である必要があります。
Q2. マンションで民泊を始める場合の注意点は?
管理規約で民泊が禁止されていないか必ず確認してください。 規約に定めがない場合は、管理組合に「民泊を禁止する意思がない」旨を確認した誓約書が必要になる場合があります。 区分所有物件では管理組合の承諾も必要です。
Q3. 民泊に必要な消防設備は何ですか?
自動火災報知設備は原則としてすべての民泊部分に必要です。 消火器・誘導灯・スプリンクラー・避難器具は、建物の規模や構造により追加で必要になる場合があります。 必ず所轄消防署へ事前に相談してください。
Q4. 住居専用地域でも民泊はできますか?
住宅宿泊事業は「住宅」としての届出のため、住居専用地域でも営業可能です(旅館業は原則不可)。 ただし、自治体条例により営業日数や期間が制限される場合があります。
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